誰かを好きだと想う、その瞬間はどんな甘いお菓子にも負けないくらい幸せな一時なんじゃないかな。






い想いをのせて、は。









「夏ももう終わんな…」







九番隊隊舎の裏、あまり人に知られていない小さなその一角に立つ大きな木を眺めながら彼がふと呟いた




「そーだねー」




目線は木へ、と言っても今あたし達がいるのは屋根の上だから自然と正面を向くだけで視界に木が入ってくる


現世のように夏休みなんてものがない瀞霊挺では相も変わらず皆忙しくそれぞれの仕事に励んでいた




「…溜めてる書類どうしよ…」



ぼーっと屋根の上から仰ぐ空は今日もとても綺麗な青色をしている




「サボってばっかいるからだろ…」



それに呆れたようでいながらも微笑みを交えて応えた彼は腕を頭の後ろで組んでそのまま寝転がった



「あの量はありえないって」


軽く諦めに似た気持ちでそう呟いて、あたしの隣で寝転びながら目を閉じている彼に視線をうつす


まだまだ高い位置にある太陽は、だけどちょうど角度がいいのか直接に降り注いではこなくて。


少し躯をよじって見下ろす彼は時折吹く緩い風に気持ちよさそうに僅かに身じろぎするほかは全く動く気配を見せない




「修ー兵ー」



それをなんだか穏やかな気持ちで眺めて、でもやっぱりこんなに近くにいるから構っても欲しくて。



「んー?」



「起きてくださーい」



目を閉じたまま生半可な返事をするだけの彼にもう一度間延びした口調で呼びかける

ふわりふわりと揺れる彼の黒髪が、意外と長い睫毛に覆われた今は閉じている瞼だとか、薄い色をした唇に何だかドキリとして、それを隠すようにそっと彼の髪に触れてみた




「…?」



さらさらと指の隙間から零れ落ちていく艶やかなそれを何度も何度も優しく撫でるように触るあたしに彼はふっ、と目を開けた



後ろにある太陽の光が眩しいのか軽く彼は眉をしかめて、それからあたしの頬にすっ、と手をのばす


おそらく彼にはあたしの顔は逆光で僅かに影って見えるんだろう、などと心のどこかで思いながら自然と頬が柔らかく曲線を描いた







「溜まった書類、手伝ってくれる…?」



彼の温かい陽射しの匂いをゆっくりと吸い込みながら至近距離に位置する瞳に囁きかける





「ったく……」



仕方なさそうに、でも優しく目を細めて微笑みながらそう零した彼にあたしも同じように微笑みかけて。




胸に広がる温かな想いを噛み締めるあたしの後ろで、夏がゆっくりと通り過ぎようとしていた





君の夏はどんな色をしていましたか?
あたしの夏は色とりどりの、君イロ 。
(070826 如月亜夜)