「………ん」




朝日が窓越しにちろちろ揺らぐのを感じて微かに眉を寄せながら勢いをつけて半身を起こす


「………」


そのまま覚醒しきっていない頭でナイトテーブルに置かれたデジタル時計へと目をやった


8月10日 午前10時過ぎ


それを確認してから着替える為目を擦りながらベッドから起き上がって身支度を始める


今日は彼のバースデーだ。


そんな事を思いながらローズクロスが刺繍された団服に身を包み髪をとかしてから部屋を後にした







食堂で簡単にブランチをとってから何気なく彼を捜す

昨日任務明けで今日は休みであるあたしは、同じく任務明けの彼の赤茶色の髪が見えないか廊下を歩きながら始終キョロキョロしっぱなしだ



「!」


階段に一段足をかけてふと上を見上げたらチラチラ見え隠れする赤茶色。

思わず緩く微笑んで踏み締めるようにゆっくり階段を昇っていく


だけど彼との距離が近くなるにつれ、そこに他の誰かがいることに気がついた



階段の半ばあたりで立ち止まったあたしは、しばし呆然としてから音をたてないように一気に階段を駆け降り廊下を疾走する



走りながら今見た光景が甦ってきてギュッと下唇を噛み締めた



リナリーがラビにプレゼントらしき物を渡していたのだ


そしてそれを照れながら受け取る彼を見て、心臓が押し潰されたように感じて気がつけば走りだしていた



リナリーが彼に仲間以外の感情を持ってないことは知ってるし、彼だってそうだという事は一年近い付き合いの中で理解している


だけど普通彼女がいたら断るもんじゃないのだろうか。


足は食堂を突っ切って更に進んでいく


それにラビはあたしがプレゼント何欲しい?って聞いた時何にもいらないって言ってたのに。


嫉妬してるんだってわかってる。それがくだらない餓鬼みたいな独占欲の塊の醜い感情だってことも。


だけど子供なあたしはその感情を抑える事なんて出来なくて、きっと誰かに八つ当たりしてしまうにきまってる



ひとりで冷静になる時間が必要だ。


そこまで思いを巡らせて辿り着いた先。




「室長っ!コムイ室長!」



徹夜明けであろう科学班の面々は皆目の下に隈がある

それを気の毒そうに見遣ってから疲れ果てている室長の元に辿りついた



「あれ〜…ちゃん?どうしたの〜?」



あたしに気付いた室長は机から顔を上げてヘロヘロしながらそう言って不思議そうにこちらを見つめてくる


「確か今日は休み…」


「あたし一人で出来る任務ってありますか?」


呟いた室長の声を無視して若干低い声でそう告げる


「暇なんで任務につかせて下さい」


「そりゃ任務なんていっぱいあるけど…いいのかい?今日はラビ…」


「いいんです」


躊躇いながらも資料を差し出した室長の話を遮って強く告げ、資料を奪いとるかのように手にした


普段と違うあたしの気迫に押されたのか何かを察したのか室長はそれ以上何も聞かず話は任務の事へ。



「何でもアクマに困らされてる街みたいでね。Levelだけだと思うからねこそぎやっつけてほしいんだ」



「わかりました……じゃあ行ってきます」



くるりと室長に背を向けて、それから思いついたかのように口にする



「それと…このことラビには言わないで下さいね。室長」


最後にチラリと振り返ってみれば困ったように微笑んで手を振る室長がいた














街についた頃にはもう日は落ちはじめていて、同時に胸の中のもやもやした怒りや嫉妬も一先ず落ち着きを取り戻していた



まだまだ駄目だなァあたし。


溜息をつきながら赤く染まりはじめている空を見上げる



ホントはちゃんとわかってるんだ。

リナリーからのプレゼントを受け取ったのはラビが優しくて、相手を傷つけたくないからだってこと。


あたしに何もいらないって言ったのはただ側にいてくれればいい、って意味だってことも。


素直になれないあたしをいつもやんわり受け止めてくれる優しいラビの笑顔が恋しくなった



「さっさと仕事終わらせてラビにおめでとうって言わなくちゃ」


頭上に現れた複数のアクマを見てはニヤリと笑うとそう呟いて勢いよく飛び上がった











「コムイの馬鹿!Levelだけじゃないじゃない!」



背中にじっとりと冷たい汗が滲むのを感じて、そしてそんな自分を嘲るように嘲笑する

難無くLevelを破壊して呆気なかった、と首をコキコキ鳴らしていたの目の前に現れた見るところLeve3のアクマが2体。


辺りの空気がまがまがしくなっていくのを肌で感じながら無線用ゴーレムでコムイに向かって悪態をつく


「ちょっと室長!?Leve3が2体も現れたんですけどっ」


『ホントかい!?…ちゃんとりあえず一旦引き下がってそれから…』


「…大丈夫。やります。だってその間に人間が殺されるかもしれない」


驚きながらも冷静な判断を下すコムイに上から被せるようにしては答えた


『でもっ……!』


「死なないように祈ってて下さい!じゃっ」


怖い気持ちがないわけじゃない。だけど自信がないわけでもないから。

一人で任務についた事を後悔しそうになる弱い心から目を背けるようにして地面を強く蹴った
















「っ!…あたしって天才じゃん……?」


血の滲む肩に手をあてながら浅い呼吸の合間に小さく呟く

その場にガクッと膝をつきなから破壊したアクマだったものへ目を向けて。


想像以上にきつかった戦いを支えていたのは、ラビにおめでとうの一言も言わずに死ねない!という自分勝手な、けれど強い想いだった




「室長〜…やりましたァ……」



だんだん荒くなってくる呼吸を整えながら弱々しくそう告げる



『…ご苦労様、ちゃん』


ゴーレムの向こう側で安心したように微笑む室長の息遣いを感じた気がした



『それで…帰ってこれるかい?』


それに小さく微笑みながら痛みに顔をしかめて答える


「たぶん……」



ふと見上げた空はもうすっかり藍色に染まっていた





「………ん?」



見上げた空で何か動くものを見つけたはそれを見つめながらコムイの話に耳を澄ます



『えっとねちゃん。今そっちに…』



!!」


「なっ……!」


耳を澄ませながら見ていた動くものはぐんぐんこちらに近づいてきていた。

そしてそこから聞こえた聞き慣れた声に思わず立ち上がりそうになって、だけど傷ついた足はその場に崩れ落ちる


『…着いたみたいだね』


「〜〜!室長コレどういうことですかっ!」


何で彼がここに…、困惑と驚きでただ彼が近づいてくるのを見つめることしかできない


『じゃあ気をつけてね』


「室長っ……!」



プツン、と切れたゴーレムの音が虚しく響いた







「大丈夫か?」


そう言いながら微笑んでしゃがんだ彼はどこか怒っているようにも見える



「………まぁ」



何だか気まずさを感じて顔を背けながら小さく呟いて。



「…軽く手当てしてから教団には帰るとして。……


背けた顔に痛いほどの視線を感じるけれど頑なに彼の方は向かない

一段と低くなった彼の声にゾワリと鳥肌がたった



「恋人の誕生日にわざわざ任務に行くってどういうことさ?」


口調は穏やかだけどやはりどこかいつもより話すトーンが低い


「…………」



あたしの我が儘な醜い嫉妬心が原因だということは百も承知だ

だけどあっさり謝れるほど心の整理は出来ていなくて。



じっとアクマの残骸を眺めながら口を硬く結ぶ

ふぅ、と彼が息をはいたのがわかった



「…無事でよかったさ…オレ、の部屋行っても誰もいねェから何処行ったか捜してたんだ。
そんで偶然コムイがゴーレムと話してんの聞いて…Leve3が2体だろ?そのあとコムイ問い詰めて慌てて飛び出してきたんさ」


「そっか……」


彼の声を近くで聞くにつれて安心したせいかさっきよりも傷の痛みが強く感じられる


だけどこれも恋人の誕生日ほっぽって無理矢理任務についたあたしへの代償だと思って。


ごめんね、の一言が喉につっかえてどうしても出てこない



「ホントにが生きててよかったさ…」



彼はもう一度そう呟くとそっとあたしの頬に手をあてた

我慢していた涙が一筋目から零れる



…今日オレの誕生日だから…何もいらないっつったけどコレだけ許してくれ、な」


そう囁く彼の声が聞こえた後に頬に吐息を感じて、それから頬に押し当てられた熱い唇に今まで燻っていた醜い感情がふっとんで素直に言葉がでた




「…ラビ、大好き」



小さく呟いてからすぐ側にいる彼の唇に振り向き様にキスをする

一瞬それに驚いたは彼はけれど、次の瞬間には口内に熱い舌を侵入させてきた



「んぅ……ん……っ…」



そのまま舌を絡め合うようにしてくちづけながら倒れ込むように押し倒される



そして息を吸う為に一瞬口が離れた合間にそっと呟いた







「ハッピーバースデー、ラビ」





再び熱くくちづけを交わし合うふたりの上で街の大時計がカチリと12時を刻んだ














あたしだけの でいて。

というわけでラビ!ハッピーバースデー!(パチパチ
夏の誕生日ということが全く活かしきれていませんがあしからず。。
アニメのディーグレはリナリーとラビがいちゃいちゃしすぎだ!ということで今回の夢が
できました(ぇ
(070810 如月亜夜)