あたたかい肉感的な唇が私の汗ばんだ肌の上にそっと触れた。その、背中におとされた優しいキスの感触が意識に浸透すると同時に私はまどろみへと意識を手放した。(思考を奪うほどの、)(キスをして) ふっと、夢の淵から意識が浮上したのを閉じた瞼のうらで感じとる。大分ひいた汗の感触がうすいシーツにくるまっただけの私の躯をひやり、と震わせた。首筋に張り付いた髪を払うように身じろぎをすればすぐ近くから小さくくぐもった吐息が耳を掠める。うっすらと瞼を押し上げてみればカーテンごしからまだ仄青さをのこした淡い光が遠慮がちに室内に色をおとしているのが見えた。 隣でおそらくはまだ夢の中であろう彼を起こさないようゆっくり躯にまきつくシーツを剥がせばベッドが微かに軋んで唸る。シャワーでも浴びようかと伸びをしながら立ち上がればそっと彼の目が開いたのが視界の端にうつった。 「………………?」 「…ん」 絹みたくさらさらの黒髪の隙間から彼の切れ長の瞳が覗いて、まだ少し眠たそうにゆっくりとひとつ、瞬きをする。シーツからはみ出た肩は細いのに実は抱かれてみると意外に筋肉がついていて。こちらにそろりと腕をのばした彼に少しだけ身をのりだして近づいてみる。頬をつつむように伸ばされた低い体温の彼の手に、擦り寄るように目を閉じた。 「」 ふわり、と指先で私の睫毛を擽るやさしい手に小さくキス。目を開けて彼をみれば静かな中に熱情を込めた瞳とであう。 「、こっち」 俯せていた躯を上半身だけ起き上がらせた彼は私の頬においていた手で少しだけ強く手首をひいた。 「ひばり、」 かろうじて隠していた胸元からシーツがはらり、ベッドに下降。同時に再びベッドに沈んだ私の躯に覆いかぶさる彼。何度しても慣れない、上からの彼の視線。目を合わせていたら飲み込まれそうで、そっと視線をはずしたのに、彼の強い視線は私の前から消えてはくれない。見つめられるほどに、高鳴る心臓。目を閉じても残像みたく焼き付いて離れない、猫のような鋭い視線が私の下腹部をまた、熱くする。 「……今日、」 視線の強さはゆるめずに静かに発した彼の低い声が私の耳を掠める。(わざと、してる)私のすきな低音の、彼のこえ。それだけで躯が微弱に震えてしまうのに。低い熱を伴った指先が、私の首筋からそうっと鎖骨をとおって胸元へおちていく。閉じた唇から微かにもれる吐息が、しん、とした部屋に響きそうで。(だけど)(もっとされたい、なんて) 「ひばり、?」 少しでも意識を紛らわそうと彼の言葉を掬い上げればふわり、と撫でるように触れられたふくらみに意識はすぐにさらわれてしまう。 「…なら言わなくてもわかるよね」 そう抑圧をかけられて急遽フル回転する頭のなかで、「今日」に続く情報を模索する。彼の指先が私の集中力をさらり、と掬い上げてしまうけれど。(考えなくても、すぐに) 「誕生日。」 小さく呟けば彼の指先がふ、ととまった。彼は誕生日、なんてどうでもいいって思ってそうなのに、こういう反応は素直でやっぱり愛しい。物事に執着しない彼が誕生日を覚えているなんて始めは驚いたけど。(理由もやっぱり彼らしくて)いつも冷静で感情の起伏が読みにくい彼のたまにみせるこうした一面は私だけのものであってほしい。(結局なにが言いたいのかって、) 「……おめでと、」 言葉とともに自然と緩む顔でしっかり彼をみつめれば少しだけ乱暴なキスのプレゼント。(プレゼントするのは私なのに、な)(熱い、照れ隠しのキス) 「ひばり、」 至近距離、お互い以外何も見えない近さで。彼の頬に両手をあててもう一度微笑む。柔らかな猫目に、薄いくちびるに、私に触れる優しい指先に。(おめでとうのキスを)(私から、) 「すき、」 吐息にまぜて込めた想いは熱いくちづけと軋むベッドに飲み込まれていった。 私の
黒猫さん
(、ひばり)(今日は離さないから)(080517如月亜夜)*おめでとう雲雀さん! |