あたしは、人の為だとかいって本当は権力振りかざしてるだけで偽善者ぶってる連中がだいっきらいだ




特に警察・・・真選組とかね






















キュッ





髪の雫を適当にきってシャワーの栓を閉める

排水溝に流れていく白い泡を無表情に眺めてバスルームの扉を開けた



むせ返るような湯気と自分の躯を纏うボディーソープの匂いには軽く顔をしかめて大判のタオルで水気を拭き取る



そしてくるりと躯にタオルを巻き付けると脱衣所を後にした








冷房をつけていた為か部屋が涼しい

風呂上がりのほてった躯を冷気が撫でていく


あたしは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すとそれをごくごく飲んだ

みずみずしい水が躯のあらゆる組織に染み渡るようで気持ちいい


ほっ、と息をついて、何だろう、妙な感じがした

何か、自分以外の誰かがいる気配がするのだ


はそっとミネラルウォーターを置くと足音を忍ばせて部屋を進む


強盗か、泥棒か。


どちらもたいして変わりはしないが、杞憂であることを願うばかりだ

たぶん怖くはないがいかんせん裸同然の姿なのはいただけない

は巻き付けたタオルの胸元を隠すように手をあて、そろそろとリビングに向かう





やっぱりあたしの思いすごしかな…



そう安堵しかけた時

小汚い服装の歳老いた男が音もなくの前に姿を現した


正直何も感じなかった。自分の部屋にいた知らない男にたいして。

盗られて困るものも別にないし、あ、下着とかはやだな。ってそれは変態か。

意外と落ち着いている頭でただ目の前に立つ男を睨むでもなく見つめる


程なくして男は何を思ったかニヤリといやらしく笑うとに近づいてきた


逃げたほうがいいのかな。


でもなんかナイフ持ってるし


ゆっくりこちらに近づきながら歪んだ顔でナイフをちらつかせる男に吐き気がする

怖くはない。だけど躯が動かないのだ。

は胸元にある手に僅かに力をこめて息を殺すように、ただ静かにその場に佇む


男があと一歩でに近づく、その時ポロリとの髪から水滴が垂れて、そしてばかでかい爆発音が轟いた



一瞬にしてすぐ目の前にいた男は爆発により吹っ飛ばされたらしく今はもう影もない


パラパラと降ってくる破片と大きく半壊した部屋


驚く、という行為も忘れては呆然と欠けた自分の部屋を眺めていた






「大丈夫ですかィ?」


突然ひょこっと瓦礫とかした部屋の一部から姿を現した青年に顔を向ける


何なんだろう、今日は。

千客万来ね。


皮肉に微笑みそうになる顔を何とか押し止めて現状理解に努めようとした


「この近所で空き巣に入られたって通報がありやして。ここの部屋の窓が不自然に開いていたんで潜りこんできたんですが、間に合って良かったでさァ」


あっという間にの目の前に来た青年は淡々とそう述べた


「それ、撃ったんですか…?」


がそっと指差した先には青年の肩に担ぎ上げられたバズーカがあって、まだ白い煙がふいている


「あァそうでさァ」


青年はあっけからんと言うとぐるりと壊れた部屋を見回した


「これじゃあ今日は寝れませんねィ。…どうですか、今夜は俺らの所に来やせんか?」


青年には悪い、という自覚がないらしい。

まあ、それでもあたしを助けてくれたことに変わりはないから良しとしよう


だけど。


青年が着ている服…明らかに警察関係者。

それに通報がどうとか言ってたし。俺らのとこってもしかしなくても。



「ヤローばっかですがここよりはマシでさァ」



真選組か。




あたしはどうも人の為に働いている輩がだめだ

だめだ、というよりそのお綺麗な精神に腹がたってくる

人助けなんて結局は自分がいい人に見られたいだけでしょ?なんて歪んだ考え方をしてしまうのだ


本当はそんなこと思う自分が一番歪んでいる。


わかっているけどどうしようもなくて。



青年の着る服からすっ、と目線をはずした


「じゃ、行きやしょうか」


青年は無言のあたしを肯定ととったらしい

そう告げるとさっさと玄関に向かって歩いていく


どうせもうこの部屋では生活出来なさそうだし。

新しいとこ、探さないと。


軽く息をつくと幸いなのか何なのか壊れていない玄関に青年を追うように着いていく


「あ」


何を思ったか青年はひとつ声をあげるとの方を振り向いた

そしてその手に握られた青年が今の今まで着ていた上着を見ては不思議そうに彼を見上げる



「そのままは危険なんでコレ、着て下せェ」


さっきまで無表情に見えた青年の顔が少し人間らしく見えて、反射的に差し出された上着を受け取った







青年に渡された彼の上着をタオルを巻き付けただけの躯にふわりと羽織る

外はもう真っ暗で夏特有の温い空気が肌に纏わり付くが、嫌じゃなくて。

あたしより少し前を歩く青年はあたしが想像していた真選組と少し違うことにこうして歩きながら気がついた


彼は、何というかふわふわとしてつかめない感じ。


あたしの前にいるんだけど、どうかするといないような、近くにいるのが苦にならない、こうして肌を撫でる空気のようだ


そういえば、夏の夜って好きだなぁ


冬のように研ぎ澄まされた感じでは決してないけれど、何だか心が和むような、落ち着くようなそんな雰囲気を持っている


何にもしないでただ空を見て歩くって事、随分していなかった気がする


そんな事を思いながら歩を進めていたら、急に腕を掴まれた


「真選組はこっちでさァ」


そう言って腕を引っ張る意外と近くにあった青年の瞳に思わず吸い込まれそうになった


「…あ…はい…」


掠れたような自分の声がおかしい

それから青年はあたしの隣で歩を進めだした



二人とも終始無言で、でも変な気まずさは感じない


ふと、何となしに隣を歩く彼を見上げてみた

夜だからはっきりと見えるわけではないけれど。

ふわふわと軽やかな髪に透き通るように白い肌、何の感情も感じさせない瞳はまるで人形みたいだ


見たところあたしと同じくらいの歳なのに、いろんな事があったのかなぁ


嫌っていたはずの真選組に勤める彼に興味をひかれる自分がよくわからなかった

















真選組に泊めてもらって、気がつけば朝だった

障子から差し込む朝日がを眠りから起こす



「……ふわ」


ひとつ欠伸をして何となく視線をはわしたら、目にとまる昨日はなかった…着物?

あたしは普段着物は着たり着なかったり。単純に着物は好きだけど、あんまり活動的じゃないから最近着てなかったなぁ


のそのそと蒲団から起き上がりきちんとそれを畳んでからは置かれた着物に手をのばした


薄いブルーというよりは空色を限りなく白に近づけた色を基調とした生地にキラキラと銀色で蝶々が刺繍されている

ところどころ金色で掠れたようにグラデーションがかかっていて一言でいうなれば夏にぴったりだ


するりと昨夜渡された寝着を脱ぐと着物に腕をとおす

さらりとした着心地は夏仕様なのか軽くて涼しい

まるで浴衣のようなそれにキュッと濃い藍色の帯をしめるとは自分を見下ろした


こんなに素敵な着物、誰が用意してくれたんだろう



「あれ?」


畳に目をやるとまだ何か置いてある

それを手にとって目線の高さにあげてみたら。


「髪…留め」


華奢な造りであろうそれはシャラ、と涼やかな音を奏でる

着物と合わせたのか銀色に、淡い水色のカケラがちらちらついていてそれは光に反射してキラキラした


手櫛でざっくりと髪をひとつに纏め、高い位置でくるりと捻る
少しふんわりするようにしてから髪留めをつけた


それからは襖を開けて廊下にでると朝日をいっぱい取り込むように目を閉じて空気を吸う


何だか着物の刺繍もキラキラ輝いているように感じて。


ゆっくり目を開けたら人の気配を感じて左を向いた



「あ……おはようございます…」


見れば向こうからやってくる昨日の青年

一晩あけてあたしは昨日青年が来なかったら死んでいたかもしれない、となんて昨日は失礼な態度をとっていたんだろうと反省した


「おはようございやす。気分はどうですかィ?」


彼は昨日と変わらず無表情で人形のようだ

だけど昨日貸して貰った上着は何だか温かかったし、こうしてかけてくれる言葉はどこか優しい


「はい、お蔭様で。」


ぎこちなかったかもしれないが微笑んで応えた


「そうですかィ。良かったでさァ」


心無しか彼も微笑んだ気持ちがして、それから彼に連れられて朝食をとりにいく







一緒に食事を共にした真選組の人達は、何だか熱いというかおもしろいというか。
とにかく偽善者ぶって人を助けるような人達でないことはたった少しの時間一緒にいただけでも充分伝わってきた。



あたしは、何を勘違いしていたんだろう


そりゃあ人間いい人ばかりではないし、誰だって何かしら抱えて生きている

だけど少なくとも皆人を助ける仕事に誇りをもっていて、その信念は真っ直ぐだと感じた


優しい人だけじゃない、汚い人だっている。でもあたしはもう少し人を、頑張っている人を信じてみてもいいんじゃないかと思ったんだ





「壊れた部屋は今日の夕刻には戻るそうでさァ」


朝食を食べ終わって、さてこれから何をしようという時に青年がそう教えてくれた


「それでこの後暇でしょうから一緒に町を散歩しませんかィ?」



「散歩って…お仕事のほうは平気なんですか…?」


あたしに気をつかってくれているんだったら、お構いなく

そんな気持ちで言ったのだが彼はひらひらと手を振って大丈夫だと言う


「町を巡回するのも仕事のうちでさァ」


そうして彼に連れられるまま町へと繰り出した














青年の名前は沖田総悟と言った

あたしも名前を告げて、ふたりでのんびり歩く






「アイス、食べやすかィ?」


暫く話をしたりお店を覗いたりして歩くうちに店先に提げられた看板をみて彼が言った



「え…でもあたしお金…」


いいよどむに総悟はすっ、と消えて戻ってきた時には手にアイスを持っていた



「食べなせェ」


「…ありがとうございます」


ずい、と差し出されたアイスと彼の好意には素直に御礼を言って受け取る



「お先に一口どうぞ」


それからアイスを持った手を総悟の口元に差し出した


「俺は……」


始めは断ろうとした総悟だったがが視線を逸らさずじっ、と見続けるので諦めたらしい


「じゃあ先にいただきやす」


そうしてパクリと冷たいアイスを口に含んだ

はそれを見届けてから自分ももうすでに溶けだしたそれを口にする


「ん、おいしい」


冷たいそれはキン、と頭へ抜けて口内を一瞬にして涼しくした


あたしは、今更間接キスで赤くなるほど純粋じゃないし


そう思いながら何気なく彼を見上げる



「…間接キス」


ぼそっと呟かれた彼の声にあたしは僅かに目を丸くした

間接キスって言ってもあたしだけだ、それにあんまりそういう事に頓着しない人間だから、何だか彼の反応が新鮮。


ぼーっとこちらを見つめる彼は相変わらず感情の読めない顔をしている



「…沖田さん?」


顔を覗き込むように呼びかけてみれば彼は小さな、だけどしっかりした声で言った



「もう一口…いいですかィ?」


「あ…全然。どうぞ」


特に断る理由もなく、第一これは彼が買ってくれたんだから、そう思いながらアイスごと渡すつもりで手を差し出す


だけど彼はあたしの手を持ってあたしの手からアイスを口にした

身長差のせいか幾分屈んだ総悟がアイスから口を離して屈んだ姿勢のまま上目つかいでを見る


さん。ちょっと」


そう呼ばれて無防備に顔を近づけたら、いつのまにか彼の唇があたしの唇にあたっていた

直前までアイスを含んでいた彼の唇から冷たさと甘さが鼻腔に抜ける


その冷たさが温くなるくらいまで唇を合わせていた

気がついた時には閉じていた瞳を開けて、まだ近い距離にいる彼を見る



「…アイス、溶けちゃう」


手に伝うどろりとした感触に半ばほうけながら呟いた


「…もうだいぶ溶けてますがねィ」


総悟もの手元にあるアイスを見てそう呟いた












あんなに明るかった夏の空ももうだんだんとオレンジ色に染まってきている


もう、あたしの部屋も元に戻ってるころだろう。


染まりゆく空をぼんやりと見ながらそう思ったは隣にいる総悟に意識を傾ける



彼は何であたしにキスしたんだろう


ただの出来心?



さっきの唇の感触を思いだしながら、彼のくちづけの理由に想いを馳せてみた

ドキドキ、というよりはとくん、のようなキスの後に躯の内がふわぁっと熱くなる感じ


あたしは、彼を好きなのだろうか


昨日今日会った人に、恋をしたの?


自分の気持ちがわからなくてふと、彼を見上げて。




彼といても胸が苦しくなるような事はない

四六時中ドキドキしているわけでもないし

ただ、キスされて嬉しかったかもしれない

あの瞬間はまるで夢をみているような不思議な感じだった



「どうしたんですかィ?」


大きな瞳がじっ、とこちらを見ていてその瞳に隠された真意を探るように見つめかえす

彼は目をパチクリさせてからふっ、と視線をそらした



「その着物…似合ってますねィ」


再び前を見つめたままそう口を開いた総悟にはピンときたのか躊躇いながらも口を開く


「もしかして、沖田さんが用意して下さったんですか?」


彼は何も言わないけれど、何だかどこか照れているように感じるのは間違いなんかじゃないよね?


「ありがとうございます。すごく、かわいいです」



もっとこの気持ちを伝えられたらいいのに。


そう思いながら精一杯の気持ちを込めてそう言った


「…気にいって貰えたんなら良かったでさァ」


「はい。とっても」


そっぽを向く彼の栗色の髪が何だか抱きしめたくなるくらいかわいい



「…沖田さん、さっき…何であたしにキスしたんですか?」



勢いに圧されてポロリとでた本音。



温い風に揺られる沈黙が怖くなってそれを打ち消すように口を開こうとした



「触れてみたくなったんでさァ」


ぽつり、と総悟はそう漏らして。続ける



「何だか…さんが部屋で立っているのを見た時からさんが気になるんでさァ」


彼の声は押し殺したように低くて聞き取り辛かったけど。


「好き、って事なんですかいねィ…」


そう言って俯いた彼の頬は見間違いかもしれないが赤い気もする






「沖田さん、また真選組に遊びにいってもいいですか?」



まだ、恋愛に発展するかはわからないけど、でも。



「もちろんでさァ。俺もさんの所、行ってもいいですかィ?」



こんなに心が浮足立つのは久しぶりで。



「いつでも来て下さい」



がそう言って微笑むとそれをちらりと横目で見た総悟も恥ずかしげに笑った











「もうすぐ日も暮れますね…」




いつまでもこうしていたくて呟いてみたら、手に彼の温度を感じて。


少し汗ばんだ彼の手は普通の男性に比べると若干小さいかもしれない

だけどあたしの手には調度よく馴染む


手を繋ぎあって自然と見つめあった

きっとあたし達の顔はお互い少しぎこちなくて、それで頬なんかはちょっと赤いんだろう







「総悟、って呼んでもいいですか?」





近づいてきた彼の唇ぎりぎりのところでそっと囁く





「いいでさァ。俺もでいいですかィ?」






再び至近距離で見た彼の瞳は凄く綺麗な色をしていた

















一夏の い出なんかにしないで、ねぇもっと。

なんか始めと終わりのテンションの違いに愕然(あわあわ
こんなの総悟じゃない!な方には土下座して謝る勢いです。はい。
でも温かく見守って貰えると嬉しいです
(070727 如月亜夜)