慣れ、って怖い……。 「。起きろ。」 「ん………」 重たい瞼を押し上げ何度か目を瞬かせてから視界に写る人物をぼーっと見つめる 「2、3日仕事で出掛けてくる。だけどお前はここにいろよ」 寝起きにクロロの低い声は何だかまた眠気を誘うようだ あれからあたしはクロロと半同棲生活なるものをおくっている アパートに帰ることも外にでることも許されてはいるし、今ここに持ってきている私物もアパートに戻って持ってきた物が大半だ だけど何故かクロロはあたしを側に置いておきたがる まぁ所詮暇つぶしだということは始めに言われたし理解してるけどね。 不自由ではないがあたし達の関係って何だろう、と考えることもしばしば。 それよりも、今は。 「……クロロが外出するのはわかった。でも何でクロロがいないのにあたしがここにいなくちゃいけないの?」 もうすっかり眠気の覚めた頭でやや不満げに彼を見てそう告げた 「逃げられたら困るからな」 「・・・・・・・・ペットじゃありません」 いや、別にここにいてもいいんだけどね、一応理由を聞きたかったんだ クロロはジトッと彼を見つめるあたしを見てククッと笑い声をもらすとやや垂れた目尻のままあたしの頬をすっとひとなでする 「ああ、そうだな。いい子にしてろよ」 それから彼のサラサラとした黒髪が寝起きでボサボサであろうあたしの髪に触れ、額が触れ合った そうして至近距離に位置する闇を思わす彼の瞳がそっと下向き加減になって、触れ合っていた額と額が離される そのまま彼はベッドから半身起こしたあたしに傾けていた躯を戻して立ち上がった 一瞬、キスされると思ったから身構えていたのに。 すっ、と離れた彼の後ろ姿をぼんやりと眺めながらどこか物足りなさを感じて、そしてそんな自分に驚く 「いってらっしゃい………」 口が渇いているせいか掠れた声しかでなかったけど、まるで恋人の帰りを待つ女みたいな挨拶をして。 自分たちはそんな甘い関係ではないというのにあたしは何か夢をみているのだろうか 皮肉に歪む口元のままシーツに目線をおとす 彼はすでにもういない。 さっきまで温かかったベッドが急に冷たく感じられた 彼と寝ていたわけでもないというのに。 「ふー………」 シャワーを浴びてタオルで髪をワシャワシャ拭きながらベッドにぼすん、と座る 部屋というのは人が一人いないだけでこうも雰囲気を変えるものなのだろうか いつもそこの椅子やソファーに腰掛けて本を読んでいる彼がいないのがどことなく変に感じて。 「変なの。いつも一緒にいるわけじゃないのに」 ポツンと呟いた気持ちは受け止める人がいないせいか妙に空虚で寂しい 特にすることもないし外に出たい気分じゃないから勉強することにする キッチンでコーヒーを入れてソファーに腰掛けノートを開いた 問題を解きながらペンをくるくるまわすのはもうあたしの癖だ 答えに詰まってふとテーブルに置いたコーヒーに手をのばして、そこで手はそのままの状態でとまった もう湯気のでていないそれはじっと空間に停止している そういえばひとりでコーヒー飲むの、久しぶりだ。 あたしはたいてい勉強する時はコーヒーを飲むからついでにクロロのぶんもいれて。 いつもテーブルにはふたりぶんのコーヒーカップが置かれていた まずいなー…… 何だか知らずのうちに熱くなってくる目元を紛らわすようにコーヒーを口にする ふたつ並んだコーヒーカップがあたしのアタリマエになっていたことに愕然としてしまった 「……っ……あつ……」 コーヒーの熱さに慌てて舌を離して、唇に感じるしょっぱい味に顔を小さくしかめた 誰かが自分の隣にいてくれていたことが、名残惜しくなるくらいもう随分遠い思い出に感じるあたしは末期だろうか ひとりで過ごしてきたあたしにクロロの存在はもう何物にも変えられないくらい必要な場所となっていたんだ 「クロロ………早く帰ってきてよ……」 いつも彼が寝ているベッドに俯せに倒れ込む クロロがこんなに恋しいと感じるなんて最初の自分には想像も出来なかったことだし、今だって戸惑ってるの 自然と落ちていく思考のなかでクロロのぬくもりを感じた気がした 言葉
なんていらないから、今そばにいて。 (クロロにおでこコツンってされたいィイ!) (070801 如月亜夜) |