君が欲しいだけ、なのに 騒がしい昼時の食堂は、任務帰りのエクソシスト、探索部隊やはたまたこれから任務へ出向く彼らでおおいに賑わっている その中で特に任務を言い付けられてはいない…と言ってもこれから言われるかもしれないが。 比較的のんびりとサンドイッチを頬張りながら隣で人懐っこい笑みを浮かべながら話しているラビの相槌をうつ 「?」 彼の話を聞きながらサンドイッチを食べ終えたあたしはアイスティーを含みながら目だけで彼の方をみた 彼はどうしたというのか、恐らくあたしが適当に彼の話を聞いていたように見えたのだろう、微かに口を歪めるとすっ、とあたしに近づく 別にあたしは彼の話をいい加減に聞き流していたわけじゃない。 ただ、言うとしたら彼に対して潜在的に距離は置いていたのかもしれないが。 近づいた彼はアイスティーを静かにテーブルに置いたあたしの耳元で、まるで見せ付けるように低く囁いた 「愛してるさ」 その柔らかい響きを持った言葉があたしの耳から脳へ伝わる前にあたしは勢いよく立ち上がった 「…簡単にそんな事、言わないで」 立ち上がったことにより上から見下ろす形で彼を見たあたしは不愉快そうに眉をしかめるとそのままの勢いで食堂の入口へ歩いていく 「ま、待つさ!」 後ろから慌てて席を立つ彼の気配にまた強く顔をしかめた 愛してる、と言われることが苛立つんじゃない。 公衆の面前で恥ずかしくて、なんてかわいらしい理由も持ち合わせてはいなくて。 本当かどうかもわからないのに軽々しく口にしないでほしかっただけ。 「!待てよ!」 少々焦りを含んだいつもより強い響きを持つ彼の声があたしの躯を呼び止めた 渋々ながらも動きを止めて振り返らずに背中で彼の視線を受け止める 「どうしたんさ…急に…」 走ってきた息を整えながら小さく呟いた彼の声に胸の奥が罪悪感のような感情で不可解に揺れた 「…………………別に」 僅かに、無言でいようかどうしようか迷って、それから当たり障りのない言葉を無感情のまま呟く 「別にってどういうことだよ」 再びまた強い語尾でそう呟いた彼は背中を向けるあたしの前に歩を進めて、無理矢理あたしの視界に自分が入るようにした なんとなく不本意ながらもつられるように彼の顔に視線を移して、そこにあった射るように強い碧の瞳に息が苦しくなる 「…俺に言われたのが嫌だったんか…?」 まだ声に強い響きを残しながらも繋がる視線はまるで怯えるように不安定で。 「そういうわけじゃない」 冷たく言い放ちながら、けれど心は様々な感情でぐるぐる渦巻いていた 居心地の悪い空気に胸が押し潰されそうになりながらも困ったようにラビを見ていたはふっ、と視線を外す 「……」 何かを含むようにそう小さくあたしの名を呼んだ彼に、それ以上何も言わせない為に、縋る声を断ち切って口を開いた 「あたしは…いつかいなくなっちゃう人を愛すなんてできない」 言いながら依然として息が詰まるような胸の苦しさに眉を寄せて堪える 「ラビは好きだけど…愛せないよ」 思ったよりも落ち着いた自分の声は、だけどロボットみたいに機械的で冷酷だ あたしの言った言葉に彼がどう感じるかなんて知らないけど、言ったあたしは胸が喉を圧迫したかのように息を吸うのも苦しくて。 だけど彼があたしの前からいなくなった時の辛さや哀しみを軽減できるんだったら。 何も言わずにただ立ち尽くす彼をもう見ずに静かに横を通り過ぎる 俯きながらすれ違ったあたしの鼻腔にかぎなれた彼の匂いがふわり、と微かに香った 気まずい、なんて表現じゃ足りない、と言っても実際そう感じているのはあたしだけかもしれないけれど。 リーバー班長に言われてコムイ室長の部屋に向かったは、そこにいた先客に思わず眉をピクリと動かす 「ああ、ちゃんっ!僕の為に来てくれたんだねっ!」 の姿を見ると抱き着かんばかりの勢いで突進してくるコムイを彼女はちらりとも見ずに避けて先客のいるソファーに腰をおろした 「冷たいなぁ……」 コムイのこういう冗談とも本気ともとれる言動は隣の男に似ているかもしれない 不自然に思われない程度の距離をあけたソファーの上でうっすらそんな事を思う なるべく視界に写らないよう意識すればするほど右半分が強張るのだ だけどコムイがこちらの私情で組み合わせを変えるほど甘い人間ではないことも承知していた 「今回の奇怪の地に行くには列車の他にも移動手段を使わなくてはならないので、一応その事を心に留めておいて下さい」 もう通常と化した飛び乗り乗車の最中一緒に行く探索部隊の人にそう言われて、了承の意を示す為軽く頷く 「移動手段って船とかなんかねー」 「…そうだね」 さっきの出来事なんて忘れたようにいつも通りの微笑みを浮かべてあたしにそう言った彼に小さく返事をして探索部隊の人に続く 探索部隊の人がいるから普段通りに振る舞うのか、それともさっきの出来事なんてラビにとっては気にも止めない程度の戯れ事だったのかもしれない 元々付き合っている、と言ってもその境界線なんて曖昧だったのだし、たいして何も変わらないのだ、そう自分に言い聞かせ先に進んだ 乗り物を乗り換える為降り立った街を歩きながらは疲れたような溜息をひっそりとついた ただでさえ初対面の探索部隊の人と一緒だというのに今は彼とも表面上は穏やかに笑いながらもどこか拭えない気持ちが邪魔をして 移動の間中神経を使いっぱなしだった なんとなしに彼を見上げて、それから一歩先を行く探索部隊の人に視線を移しながらぼーっと思いを巡らせる 早く任務を終わらせて帰りたい、そう思う片隅でいつも通りに微笑んでいるように見える彼の頬がどこか少しぎこちなく感じた 「エクソシスト様!」 切羽詰まったような探索部隊の声と同時に現れた複数のアクマ 上空に浮かぶまがまがしいそれはこちらに躯を向けると一斉に戦闘体制にはいった 突然の事に一瞬反応の遅れた自分に舌打ちしたい気分を堪えてイノセンスを解放しようとした時。 無防備な探索部隊にアクマの攻撃の標準が向いているのを見て声を上げるのもままならないまま駆け出した 「危ないっ」 間一髪アクマの射程範囲に滑り込み探索部隊の人を庇った瞬間打ち出されるアクマの血のウイルス 打たれるさいに感じる痛みに堪えるように目をつぶったあたしの躯に触れる体温と、匂いに一気に目を見開いた 写ったのは、団服の黒と白にマフラー、そして打たれた箇所を抑えて辛そうにしながらも微笑む彼の顔と柔らかい赤茶の髪。 「……っ!ラビっ」 放心しそうになる思考を無理矢理働かせてその場に仰向けに倒れた彼の横に膝をつく ペンタクルが浮き出るのを見て唇を噛み締めるとはラビの躯に手を翳した 心臓がドクン、ドクンと内側から躯を叩くように鼓動している どっ、と噴き出す汗が肌を流れるのを感じながら躯に宿るイノセンスに強く願った イノセンス、発動!! その瞬間の躯とラビを包むような巨大な光が溢れて一瞬の後、それはの内に吸い込まれるように消えた さっきまでラビの顔に浮き出ていたペンタクルがすうっ、と消えていくのを見ては大きく安堵の息をつく 「馬鹿…あたしは寄生型だから体内のウイルスは浄化できるって知ってるでしょ…」 「そうさね…」 起き上がりながら柔らかく微笑んだ彼を少し見つめて、それからふいっ、と視線をそらす 身を挺してあたしを庇ってくれた彼は、何を思って行動したのだろう 仲間だから? ふと、昼間彼に言われた言葉が脳裏をよぎった (愛してるさ) それを頭から振り払うように周りに目を移すと一人で結界装置でアクマを捕らえ、その状態をキープしている探索部隊の人の姿が目に入った 「探索部隊さん!」 慌ててそちらに駆け寄るあたしに彼は苦しそうに汗をかきながらも微笑んで言った 「私にはこれくらいしか出来ませんが…」 「そんな…充分です」 力強くそう言って安心させるように微笑んだは、結界装置により捕らえられ身動きの出来ないアクマ目掛けて飛び込んでいく 「〜さっきはサンキューさ」 「…お互い様」 大槌を振り回しながらニカッ、と笑って言った彼に次々にアクマを破壊しながらそう返事をした 「今夜はこの街で宿をとって明日また移動します」 多少声に疲れを含みながらもあたし達を気遣かってか一歩先に宿探しの為進む探索部隊の人の提案に頷いて後に続く いや、あたしは続こうとしたのだ だけど踏み出した足は掴まれた腕によりその場に留まりざるを得なくなった 「………何」 軽く、掴まれた右腕を振り払おうとしながら半身彼に向き直る 「さっきの事だけど…」 「さっきって?」 大分陰りを見せる空はとうに夕日は沈んだようでこうして見上げる彼の顔もよくは見えない ただ声と僅かな街の街灯に照らされた彼の顔は言い澱みながらもどこか真剣さを帯びていた 「…教団」 そう呟いた彼の声に少し前の記憶が甦ってきて思わず掴まれた腕が小さく揺れる 静かに見つめるだけのあたしの顔は今彼の目にどんな風に写っているのだろうか。 何も言わないにラビは更に言葉を続ける 「その…気に障ったんなら謝るさ…」 「………」 瞬きもせずに見つめていたわけではないというのに視界の先が揺らいで焦点がぼやけてきた 呟いた彼の言葉は確かに耳には入ってくるのだが脳にまでは浸透してこない 「謝るさ…だから……愛せないとか言うなさ…」 「………」 そう言って俯くように目線を下げた彼は何故か独りに見えた 今の彼の声が頭の中で何度も反芻される中、アクマに打たれながらもあたしに微笑みかけた彼の顔が浮かんで。 「…ずっと一緒にいてくれるんだったら……」 街灯に照らされた地面に目を向けて、まるで妥協するような声音で消えそうなくらい小さく呟く そのままいつのまにか緩くなっていた腕の拘束をすっ、と振りほどくと彼に背を向けて歩き出した だけどそれもほんの数歩で動きを封じられて。 「……探索部隊の人、待ってるよ…」 後ろからのびてきた腕に肩を抱かれ身動きがとれなくなったあたしは背中に彼を感じながらもそう言い放つ 「悪い……少しだけ…こうさせて」 そう囁いた彼の声がくぐもって聞こえたのは、きっと彼が後ろからあたしの髪に顔を埋めるようにして俯いているからだろう それにふー、と躯全体で諦めの溜息をつきながらそっと目を閉じて呟く 「今日…一緒に眠る…?」 肩に感じる温かい重みがとても心地よく感じた
約束して?それだけであたし、強くなれるから。 うわァ。。 見事に甘くない……!! 甘いのがお好きな方には申し訳ない作品に。。 ただ、シリアスな雰囲気の中に流れる甘さを感じとって頂けたらなァ、と。。(逃げっ (070824 如月亜夜) |