太陽の光をうけてきらきら光の粒が反射。白く染まったアスファルトには少し溶け始めた氷が薄く膜をはっている。その上を慎重に歩きながら足元からする軽快な音に少しずつ楽しくなっていって。大きく空を仰げば雲のない真っ青な空が眩しい太陽の光を優しく降り注いでいる。 休日明けの月曜日はいつも少しだけ憂鬱。今日からまた日常が始まるのだと思うと昨日が無性に名残惜しくなる。そんな私の思いを和らげるように視界に映るはあらゆる色を覆い隠す一面の雪景色だった。太陽の日差しのせいか風がないからなのか今日は手袋がいらないくらい暖かい。緩く巻いたマフラーに自然と緩む口元を隠すようにして足元に目線を落とした。 (やっぱり雪って好きだなぁ) 誰もいない通学路。私が雪を踏みしめる音だけがこの幻想的な世界に僅かに現実感をもたらすようだ。誰かの足跡の上をそっと歩いていくのは少しだけ疲れるけれど滑らないようにするにはこれが一番いい。 暫く集中して歩いていた私がふっ、と顔を上げると通学路から少し外れた場所に誰も手をつけていないまっさらな雪景色が広がっていて。思わず白い息と一緒に「綺麗・・」とひとり呟いた。柔らかそうな雪の絨毯は誰かに足跡をつけられるのを待っているようにも、このまま綺麗なままでそっとしといて欲しいようにも見えた。 (嗚呼でも私、やっぱり。) やっぱり私は綺麗な雪に足跡をつけてみたい衝動を抑え切れなかった。日差しで溶けかけた表面の雪は私を誘うようにきらきらキラキラ。肩にかけた鞄の持ち手を一回きゅっ、と握りなおしてどんどん逸る気持ちのまま私は足を踏み出した。 (少しだけ、勿体無い気もするけれど) もう少しだけ日差しが弱かったらこんなに早く雪だって溶けないのに、とちょっとだけ恨めしい気持ちで軽く空を見上げた途端、足が滑る感覚。 「わぁっ」 ひとりだとか関係なく思わずあがる自分の声は情けなくて、目を閉じることもできず何も考えることなんてできなかった。 「危機一髪、ですね」 尻餅をつく寸前に脇を抱えられた感覚と、頭のすぐ近くから聞こえる声にとくん、と胸が高鳴った気が、する。 「むくろ、くん・・」 脇を抱えられたままで僅かに後ろを振り返ると彼のマフラーと彼の匂いが私に彼の存在を確かめさせた。ゆっくり地面に自分の足で立たせてもらった私は何とも言えない恥ずかしさと感謝してもしきれないくらい今骸くんが助けてくれたことにありがたい、と感じる思いが混じって慌てたようにお礼を言うことしかできなかった。 「ほんとにありがとう」 もう一度向かい合ってきちんと彼の目をみてお礼を言えば「いいえ。」っていつもの優しい微笑みつきで返してくれるから、私はまた恥ずかしくなって急いで視線を逸らした。全身の血が勢いよく巡っている気がするのは転びそうになった恐怖から開放されたせいだけなのだろうか。 立ち止まったまま動こうにも動けなくて。(こういう場合って一緒に登校するものなのかな?)結局足跡をつけられなかった雪の絨毯をぼんやり見つめていたらとんとん、と肩に軽い感触。 「なに?」 彼の方を向いてそう問えば彼は薄く微笑したまま前方を指差していて。その指先を辿るように視線をやればそこには久しぶりに目にする、虹。 「虹・・・!!」 近所のおじさん達が凍結した道路を水で溶かしているそのホースから放たれる水しぶきが四色の光の粒となって私たちの目を鮮やかに彩る。 いつまでも虹をみていたい気持ちは山々なんだけど、そろそろ学校へ行かないと遅刻してしまいそうだ。少し目を見開いて虹を焼き付けるように。隣に骸くんもいて、それも含めて一緒に私の記憶に鮮やかな思い出として残るんだろうな。ふんわり花が綻ぶみたいに今私、笑ってるのかもしれない。幸せな気持ちを抱えたまま自然と彼を振り返ったらそれに答えるように彼も優しく微笑してくれた。 「では、行きましょうか」 「うん!」 彼が当たり前のようにそう言ってくれたのが嬉しくて笑顔のまま返事をしたらそっと手のひらに伝わる温度。さっきまで骸くんは確か手袋していたはずなのに、今それははずされていて。(それよりも、) 「またが転びそうになってもこれで大丈夫でしょう?」 軽く握られた手のひらと手のひらから幸せの気持ちが溢れちゃいそうだよ。冷たそうに思えた彼の手は温かくて。反射的に握り返した私に降ってくる微笑みと微かな笑い声がとても心地いい。 骸くんはいつから私と同じ道を歩いていたんだろう、とか住んでる場所近いのかな、とか質問したいことも話したいことも後から後からわいてくる。(だけど。) 「雪、綺麗ですね・・」 そう言って少しだけ空を仰いだ骸くんの横顔があまりに綺麗で優しいから。開きかけた口を閉じて私も同じように青空を見上げて柔らかい日差しと空気をそっと吸いこんだ。
君のとなり
(080204如月亜夜)(繋いだ手を、離したくないよ。) |