毎日普通に学校に通って、放課後は友達とおしゃべりしたり、カラオケに行ったり。至って平穏なあたしの日常だけど、最近ちょっと気になる人がいます。 朝パラパラ降っていた雨のせいで今日の体育は中でドッチだった。体育はするモノによって好き嫌いがわかれるし、体育がある日のテンションもおおいに変わってくる。でももうすでに体育は終わった後だし、それなりに楽しかったから、よしとしよう。お昼ご飯は友達と机を囲んで食べて、爆笑しまくりだったなぁ。その話を思いだしてひとりでに緩む頬を頬杖をついてごまかす。あと一時間で今日の授業も終わるし。酷く穏やかな気分で今日最後の授業である英語を受けながら、だんだんと下がってくる瞼。 (寝たいのは山々なんだけど・・英語の先生怖いからな〜) 欲求と理性の間をさまよいながらも確実に思考は緩くなっていく。そこで眠気覚ましに首の関節をコキッ、と鳴らしてみた。左、右。そうしているうちに自然と隣の席が目に入ってくる。そのまま首を右に傾けた状態であたしは行動を一時停止させた。というのも隣にいる彼、降谷君に目が奪われたからなんだけど。さらり、と綺麗な黒髪が涼しげな目元に柔らかく影をおとしている。女の子と同じくらい白くて滑らかな肌が黒髪と絶妙なコントラストを醸し出していて。降谷君と隣の席になった時はすごく嬉しかったなぁ。話しかけたくて、話してみたくてうずうずしてた。 (それは今も変わらないけど) でもこういざ話しかけようとしても話題がないっていうか、降谷君の顔を見たまま固まってしまう。無表情で何考えてるのかわかんないけど、不思議と怖い感じはしなくて。降谷君と話してみたいなぁ。呪文のようにそればかり繰り返しながら気が付けばまた意識が遠のいていく。 ガクン 身体が椅子から落ちそうになってあたしは瞬間的に意識を取り戻した。幸いあたしは一番後ろの席だったから人に見られることはなかったけど、やっぱり恥ずかしい。ちらりと隣の彼に視線をやってみて、だけど彼はこちらのほうを少しも見ていなかった。安堵感とともにちょっとだけ寂しいなぁ、なんて気持ちも浮かんできて。そしてまた落ちてくる瞼。軽く上下する頭に僅かに残っていた意識で手から滑りそうになっていたシャープペンシルを持ち直そうとしたら。それは見事にするりとあたしの手をはずれて軽快な音をたてて床に落ちた。その衝撃とまた襲う羞恥の気持ちで急いでシャープペンシルを拾おうと床に手を伸ばす。 「はい」 あたしから後数センチのところでひょいと掬われたそれは綺麗な白い指に包まれていて。つられるように指の先を見上げたあたしの目にうつった降谷君。 「・・あ、ありがと〜」 それを受け取りながら初めて(だと思う)降谷君との会話にちょっとだけ胸がドキドキして、眠気なんてあっという間に吹き飛んでいた。受け取る時にほんの僅か触れた彼の指の感触に何だか嬉しくなってしまう。自分の席に傾いていた身体を収めて、ふと時計に目をやったらもう終了時間だった。それと同時に鳴り響くチャイム。もうあとちょっとだけ余韻に浸っていたかったなぁ。そんなことを考えながら、でも自然とウキウキしてくる気持ちは止められなくて。ほんの些細なことだけど、あたしにとっては大切な彼との接点だ。起立と礼をしてまた再び席につく。 「さん」 「っはい!」 突然話しかけられて不自然なほど勢いよく声のした方を向く。そこにはノートを差し出した降谷君がいて。 「ノート?」 とりあえずそれを受け取りながら軽く首を傾げて彼の静かな瞳を見た。やっぱりこうして向かいあってみると降谷君って整った顔してるなぁ。それでやっぱり大きい身体だ。そういえば確か野球部だったと思う。じっと彼を見つめながらそんな事に思いを巡らせていたら、彼の唇が開いて、自然とそれに集中する。 「さん寝ててノート全然とってなかったから」 相変わらずの無表情で澱みなくそう言った降谷君。優しいなぁ・・じゃなくて。 「見てたの!?」 グラグラ前後左右に揺れてたからそりゃあ視界に入るかもしれないけど。でもやっぱり恥ずかしい。涎とかたらして目とかも半目だったらどうしよう。うっすら変な汗をかきながら彼の反応を待ってみる。待ってみる。待って・・どうやら彼は答える気がないらしく綺麗に無視してくれた。整った表情で黒板の方を向いてる降谷君はどこから見てもやっぱり格好よくて。その横顔に少し見惚れながら口を開く。 「ありがとう。降谷君」 手にした彼のノートを軽く抱きしめて、言葉とともに何だか温かい気持ちも一緒に溢れた。 「・・うん」 こちらを向かずに、でもそう返事をしてくれた彼の口元がうっすら微笑んでいるように見えたのは、あたしが恋をしているからなのかな? 手にあるノートをもう一度今度は少し強く抱きしめて。騒がしい教室の中でここだけ柔らかい空気が漂っている、そんな気がした。 Next きっかけが必
要です
(0711009 如月亜夜)(きっかけ。それはこんな些細なことから。)お題お借りしました。 配布元:TV |