この恋は独りよがりなんかじゃないと、誰かあたしに教えて。









そう、少し乙女チックな気持ちで窓から見える青空にむかって呟いてみた。



































降谷君とあたしは随分仲良くなったと思う。あくまでも「思う」だけなんだけどね。そう思いながらちらりと盗み見た彼はいつもと同じくぼーっと黒板を見つめている。彼は本当に時々だけれど微かに笑顔を見せてくれるようになった。笑顔、といっても目元が少しだけ弧を描く程度のもので傍目から見たらいつもと同じ無表情にしか見えないと思う。だけど確実に彼を取り巻く空気が柔らかくなるのを感じ取れるしあたしはたとえほんのちょこっとでも彼があたしに向かって微笑みかけてくれるなら何だっていいんだ。確かに普通の人よりは表情に乏しいかもしれないけど、今日は少し眠そうだな、とかなんかちょっと嬉しそう?とかそういう極僅かな感情の変化は彼にだってあって。そしてそんな彼の微妙な変化がわかるのは今のところあたしだけなんじゃないかなぁ。ううん。あたしだけであって欲しいっていう願い?希望?ふっ、と彼から目線を逸らしてまた窓の外を見る。目にうつったグラウンドでは体育をしているんだろう。外で活発に動きまわる体操服を目で自然と追う。降谷君が北海道から来たこととか、授業中寝てるわけじゃないのに何故かテストの点が良くないこととか、表情には表れないし誤解されやすいけど本当は優しいところ、とか。そういう彼の一部分、一部分を知っていくたびにスキの気持ちは増えていくばかりで。
















(あたしもしっかり恋する乙女だなぁ)











授業の内容なんてこれっぽっちも頭にはいってこない。今回のテストはヤバイかもなぁ。なんて思いながらもあたしの思考はいつのまにか彼でいっぱいになってしまうのだった。


















授業が終わりを告げて、もっと言うと今日の授業は全て終わっていて。終わるの早いなぁとか全然授業聞いてなかったよ、なんて思いながら教材を片しに廊下へ足を進める。その間も考えるのは彼のこと。あたしはこの通りばっちり彼に恋しちゃってるわけだけど彼はどうなんだろう。嫌われてないっていうのはわかるんだけどね。ちょっとした彼の仕草や表情、声のトーンとかでいろいろ探ってみたりして、だけど彼があたしに恋してるかどうかはやっぱりわからない。











(降谷君もあたしを好きだったらいいのになー)











ちゃん」











そんな能天気なことを考えていたらふと、誰かに呼び止められてパッと後ろを振り向く。そこにいたのはあたしより少しだけ身長が高くて照れ屋な春市くんだった。










ちゃんコレ落としたよ」




「え?」







小さくて優しい低音の声がそう言ってあたしに差し出したのは筆箱。どうやら春市君はあたしが知らぬ間に落としていた筆箱(何で筆箱持ってきちゃったんだろう)を親切にも拾ってくれたみたい。そんな彼にお礼を言ってそれからあたし達は軽くおしゃべりに花を咲かす。春市君とは入学当初からなぜだか意気投合してこうやってよくおしゃべりする友達だ。あたしは彼のすぐ赤くなるほっぺとか降谷君とはまた違った感じのさらさらの髪の毛とか女の子みたいに繊細そうなのに野球をしてる時はすごく頼もしそうなところとか全部含めて好きだ。(これは勿論友達としての好きだけど)そんな風に春市君とお話をしていたらポンポンっとあたしの肩を叩く感触にふと話を止めてそちらを振り返る。

















振り返った先にいたのは降谷君。(あれ?なんかちょっと機嫌悪い?)











「ふるやく・・・」





さん。ちょっと」








声をかけたあたしの声に上から被せるようにして彼はそう言うとスタスタ先を歩いていってしまった。だからあたしは慌てて春市君に「ごめんね」と言って彼のあとを追いかけ始めた。














(どうしたんだろう降谷君。いつもはあたしが歩きだすまで待っててくれるのに)












少しだけ不安になりながら必死に彼を追いかけて、漸く彼が立ち止まったのは人気のない階段近くの踊り場だった。彼の数歩後ろで立ち止まったあたしはあまりにも彼が速いから小走りをして上がった息を落ち着かせてみる。















どちらも話さない静かな沈黙がひっそりと流れる。今頃終礼がされているんだろう。そう考えていたら彼が顔だけこちらに向けて振り向いた。その無機質な瞳に込められる強い光に思わずごくりと唾を飲み込む。















「スキ。さんがスキだよ」











静かな廊下に吸い込まれるように響いた彼の同じく静かな声はゆっくりとあたしの脳髄に浸透していく。告白(だよね?)をしているというのに涼しげな彼の顔は、だけどやっぱりどこか緊張してるみたいだ。それがわかってあたしは小さく笑みを零した。それが引き金になったようにどんどん胸が高鳴って指先まで微かに震えてくる。そのまま自然とにっこり微笑んだあたしに降谷君も(あたしにだけわかるくらい)微かに、そしてちょっとだけ照れくさそうに笑ってくれたんだ。






















(あとで先生に終礼サボって何処行ってたのかって聞かれたんだけどあたしと降谷君はお互いに顔を見合わせて微笑んだだけだったから先生がなんだか不思議そうにしてたんだ。)





















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さぐり いはもうおしまい
(071216 如月亜夜)(そういえば降谷君、春市君に嫉妬してたのかなぁ・・・なんて、ね?)
お題お借りしました。
配布元:TV