今日も一日が終わって、楽しかったなぁなんて思いに耽りながらシャワーのコルクをきゅっ、と閉める。ホカホカ湯気を纏いながら自然と頭に浮かぶのは、最近「恋人」になった彼の事。 洗濯したてでふわふわのパジャマに身を包みながら自分の部屋に戻るとベッドに置いたケータイがチカチカ点滅しているのが目に入った。もしかして、と淡い期待とともに急いでケータイを開くと目に飛び込んでくる「着信一件あり」の文字。それを見て嬉しい気持ちとともに彼に悪いことをしちゃったなぁ、と今までシャワーを浴びていた自分を少し恨めしく思った。そのままカチカチとケータイを操作していたらどうやら留守電が残っているらしくて。まさか彼が留守電を残してくれているなんて思わなかったから。ドキドキと脈打つ胸に手をあてて一回深呼吸。ケータイを耳にあてて、まだ五月蝿い自分の鼓動で彼の声が聞き取れなかったらどうしよう、なんて。そのまま少し時間が過ぎて、だけど一向に耳に入るのは無音のみ。 「・・・?」 不思議に思って更に強く耳にケータイを押し当ててみて。 「・・・・・また、明日」 漸く聞こえたのはたった一言で、だけどそれだけでも幸せを感じることのできるあたしは相当単純だ。それに、なんだかすごく彼らしい。ひとりで少しだけ声を漏らして微笑みながら、胸がほっこり温かくなるのを感じた。 恋人になったと言っても恋人らしいことなんて何にもしていないように思う。きっと周りから見たら今までと少しもあたし達の関係は変わってないように見えるんだろう。彼も何かと忙しい身だし、一緒にいられる時間だって限られている。だけど、あたしはそれでもいいんだ。だってやっぱりどこか彼の表情とか、ちょっとした態度とか言葉の節々に優しさを感じることができるから。なんて、自惚れかな? 登下校とか、手を繋いでいるカップルを見て羨ましくないわけじゃない。彼は寮生活だから不可能だってこともわかってるし。だから降谷君の隣に当たり前のように存在できるだけでいいんだ、ってことにしておこう。 それに今日は日直の日でいつもより彼と一緒にいられる時間が多いわけだし。(日直は大抵隣の席の人とだから)日直といっても授業の後に黒板を消したり日誌を書く程度だから苦になんてならない。いや、降谷君と一緒だからかな。 午後の暖かな光が大分斜めに差し込む教室には今、あたしと降谷君のふたりきり。うちのクラスは部活やら普通に帰る人やらとにかく皆帰るのが早い。黒板を消してくれている彼の後姿を時々ぼうっと眺めながらあたしはなるべく急いで日誌を書き上げていく。(あ、勿論字は綺麗にね)それに外から窓を通して聞こえてくるボールの音やバッドの音、威勢のいいかけ声に時々彼が反応してぼーっと窓の外を見ているから尚更早くしなきゃ。だけどもう少しだけ降谷君と二人っきりでいたいなぁ、なんて。そう思うとペンの進む速さがちょっとだけ緩くなった。(いけない、いけない)ふっ、と顔を上げてみるとまだ彼は窓の外を少しだけ羨ましそうに見ていて。それに少しだけ、本当に少しだけ寂しい気持ちに襲われながらあたしは最後の。を急いで打って席を立った。 「おまたせー」 そのあたしの声に反応した彼がこっちを見て軽く頷く。それから黒板消しを追いてあたしの方に歩いてきた。それを目の端で確認しつつあたしも教室のドアに向かって足を進めて。 「さん」 すぐ後ろから聞こえた彼の声にちょっとだけ驚きながら振り返ると右手に持っていた日誌をひょいっと奪われた。 「え?・・あたし、持てるよ?」 慌ててそう言ったけど降谷君はまるで聞こえていないかのように振舞ってさっさと廊下にでてしまった。日誌くらいあたしでも持てるけど、降谷君優しいなぁ、なんて思ってたら。何だか隣に立つ彼がそわそわしているのに気が付いた。不思議に思って視線を何気なく下に下げてみると、開いたり閉じたりを繰り返す彼の大きな手。そういえばどこか彼の表情も照れたように少しだけ硬い。何だか急に嬉しくなってそっと彼の手に自分の手を滑りこませてみた。一瞬びくっとした彼は、だけどそのままあたしの手を柔らかく握って歩きだした。いまだに照れたような彼の横顔を見つめていたら小さくその唇が開いて。 「今日、部活終わったら・・電話する」 嗚呼、降谷君ももしかしたらあたしと同じ気持ちでいてくれたのかも、なんてまた嬉しくなってそっと繋ぐ掌に力を込めた。 今日の回想を終えた頭はまださっきの留守電から聞こえた彼の声を記憶して、何度もあたしの頭の中でリピートする。彼独特のテンポと耳に優しい低い声が脳髄に染み込んで何度もあたしを捕らえて離さない。 (降谷、くん) 唇の形だけで呼んだ彼の名前に一瞬胸が熱くなったのを隠すように枕に顔を埋めて。今彼は何をしているんだろう。そう思いながらゆっくりと目を閉じた。 (何だか今日は降谷君の夢が見れそう) Next るすばん電話の
声がすき
(071223 如月亜夜)(夢でまた、会えたなら)お題お借りしました。 配布元:TV |